「ここは鳥取賀露神社　その石段をただ一人
　　　一升徳利を横に下げ　一杯機嫌でふらふらと　降りた所が賀露街道」

　四区の新川つるさん（明治45年生れ）は、昭和28年に、伊勢音頭の替え歌「賀露音頭」を作詞されました。伊勢音頭は伊勢神宮への参拝道中や参拝の喜びを表す民謡として広まりました。一方で、風俗、風刺、恋愛などを取り入れた様々な替え歌が全国各地でつくられました。
　新川つるさんの替え歌「賀露音頭」は、神社の石段を下りたところから鳥ケ島を眺める浜辺までの下賀露の様子をユーモアを交えながら、次のような調子で紹介しています。

　　向う側なる煙草屋は、名前は愛らし可愛（河合）さん
　　何百年の後迄も、古くなっても新（あたら）しや
　　格子作りのあの家を、中戸（中藤）さんとはこりゃいかに

　この賀露音頭は、その後、昭和33年、54年に加筆修正されました。ご子息の新川春海さんのお話によると、賀露の街並みの変化に伴って賀露音頭も書き換えられ、足掛け26年かけた大作に仕上がったとのことです。
　新川つるさんは、賀露漁業協同組合婦人部（昭和35年設立）の初代会長として漁村地域の活性化に大きく貢献されました。また、賀露町伝承芸能保存会設立時の顧問として賀露文化の承継に尽力されるなど、賀露を愛した英傑のお一人でした。

※ 英傑（えいけつ）：ほかの人では出来ない素晴らしい功績を挙げた人


　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　セリ終わる　賀露　昭和30年


賀露音頭　昭和三十三年作詞
賀露町四区の商店街を主として作詞したもの
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　新川つる

一　　此所は県社の賀露神社　其の石段を只一人
　　　　一升徳利を横にさげ　一ぱい機嫌でふらふらと

二　　おりた所が賀露街道　山田渡辺右に見て
　　　　さげておりたる徳利は　三田商店にあづけ置き

三　　たくの通りを通り抜け　電気や大江に腰おろしゃ
　　　　これより先が港部（みなとぶ）の　おとに名高い商店街

四　　左手はるか見えるのは　ロープ仲買金さんよ
　　　　右手が溶接若林　向う側なる煙草屋は

五　　名前は愛らし可愛（河合）さん　中谷八百屋は隣組
　　　　木炭問やの坂口さん　ハイヤーの取次若バ亭

六　　四百四病はすぐなをる　有田温泉その前で
　　　　有田のとなりに軒並び　竹輪にフライにテンプラに

七　　何でもと整ふ司（かねわ）店　司のとなりにましますが
　　　　何百年の後迄も　古くなっても新（あたら）しや

八　　新さんの向う側　格子作りのあの家を
　　　　中戸さんとはこりゃいかに　中藤（なかとう）さんの右向う

九　　自転車御用は吉川さん　船具売やの松鶴（まつつる）さん
　　　　チョキチョキ上手な諸家（もろが）さん　御酒の御用は糀店（こうじみせ）

十　　糀のとなりに昔から　会社会社と数あれど
　　　　中村会社はここにあり　中村会社で一服し

十一　煙草ふかして見上げれば　鳥取県では名の高い
　　　賀露漁会は目の前で　その又となりの建物は

十二　多年漁業にたづさわり　其の経験を物語る
　　　　事あるたびの集会所　隠居部屋とは誰が云うふた

十三　隠居部屋をあとにして　裏に廻れば新道路
　　　　氷会社を横に見て　麻木（あさき）呉服をチョイと眺め

十四　諸山（もろやま）造船通り越し　西浜さして出てきたが
　　　　一寸ここらでふりむけば　長々続く岸壁は

十五　萬里の長城を思わせる　その岸壁にたたづめば
　　　　見渡す限りの海原は　此所ぞ皆知る日本海

十六　沖を通えるあの船は　漁船かそれとも監視船
　　　　磯に大きくわだかまる　山のようなるその島は

十七　これ又名高い鳥ケ島　老いたる人の伝説にや
　　　　原始時代のその昔　中国帰り吉備候が

十八　遭難なされしその時に　飛び上がられし故縁（ゆえん）にて
　　　　とび上がり島と名付けしに　今じゃ略して鳥ケ島

十九　磯打つ波の雄（おお）しさは　賀露町民の度胸だめし
　　　　賀露の若い衆の肝だめし　賀露の若い衆の肝ためし