大杙の尾白狐

 一話 「コンコン、コンコン」と大きな鳴き声をだしながら、尾白狐が袋川の大杙土手を走って行きました。「オーイ尾白狐が鳴いて走ったぞ、気を付けようぜ」と、村の人々は声をかけあいました。

 「あっ佐助さんのたんぼの藁ぐまから煙が出ているぞー」、村中の人々が手桶を持って藁ぐまのまわりに集まりました。袋川まで一列に並び、手桶リレーで、川の水を運び、燃え上がろうとしている藁ぐまの炎を目がけて、桶の水を力いっぱいぶっかけました。火は瞬く間に消えました。

 「あーあー良かった。尾白狐が知らせてくれたおかげで、大事にならずにすんだ。」村人達は姿の見えない尾白狐に向って、口々に大きな声で「ありがとう」と叫びました。

 

二話 「コンコン、コンコン」と大きな鳴き声を出しながら、尾白狐が大杙土手を走って行きました。村の人々が不安そうな顔をして集まって来ました。「畑に長衛門さんが倒れておるぜ」という声が聞こえてきました。村人達は早速長衛門さんを家に運んで寝かせました。「サア七人篭に上って拝もう」と衆議一決、夕暮を待って裏山の頂上、通称七人篭という所で篝火を焚いて、長衛門さんの病気が一日も早くなおるようにと一生懸命お祈りをしました。その後も村人は毎日七人ずつ交代して七人篭に上って祈願しました。尾白狐の鳴き声で病人が早く発見されたことと、七人篭での村人の祈願のご利益を受けて、長衛門さんは一週間程ですっかり元気になりました。


三話 「コンコン、コンコン」と大きな鳴き声を出しながら、尾白狐が大杙土手を走って行きました。村人達が家の外に出て来ました。「アッ留守の惣兵衛さんの家から人が飛びだして荷物もって走って行くぞ」「泥棒だ、ソレー捕まえろ」、みんなが逃げる泥棒の後を追いかけて走りました。足の早い泥棒も大勢の村人達にはかないません。とうとう村人に捕まり、藩の役人の前に差し出されました。泥棒は惣兵衛さんの娘の嫁入り衣装をごっそり盗んでいました。尾白狐のおかげで、惣兵衛さんの娘はめでたく、盛大な結婚式を挙げることができました。



尾白狐を祭神とする大杙の尾白稲荷大明神は、村人の信仰を集めています。