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むかしむかし、雲山にベンズリ坂のいう峠がありました。その奥の山の中に、母と娘の親子狐が住んでいました。娘狐の名前はお孝女郎と言いました。 お母さん狐が病気になりました。お孝女郎狐は小娘に化けて、毎晩ベンズリ坂の下にあった茶屋を訪ねました。茶屋の親切なお爺さん・お婆さんから、栄養たっぷりのおいしい油揚をもらって来て、お母さん狐に食べさせました。 ![]() お孝女郎の熱心な看護の甲斐もなく、お母さん狐は亡くなりました。 一人になったお孝女郎狐は、都に出て働き、お金をためて、お爺さん、お婆さんに恩返ししようと決心しました。 「お爺さん、お婆さん、大変お世話になりました。都で働いて来ますので、三年程元気で待っていて下さい。きっと帰ってきますから」と言うと、お孝女郎狐はパッと姿を消しました。 冬の初めの霰が降る寒い夜でした。茶屋のお爺さんとお婆さんは、炬燵にあたって、コックリ、コックリと居眠りをしていました。トントンと店の戸を叩く音がするので、お爺さんが眠そうに、目をこすりながら戸を開けると、一人の美しい娘がハアハアと息を切らせながら、店に駈け込んできました。 「お爺さん、お婆さん、おなつかしゅうございます。私は三年前、大変親切にしていただきましたお孝女郎狐です。一生懸命働いたので、こんなにお金がたまりました。これで大きな家を建てて幸福に暮らして下さい。」と、お金で重くふくらんだ大きな袋を、二人の前に差出ました。お爺さんとお婆さんは夢かとばかり、大喜びしました。 ![]() ゆっくり話を聞きたいと、引き止めましたが、お孝女郎狐は、後を降り返り振り返りながら、ベンズリ坂の奥の山へ帰って行きました。
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